会期
2024年11月1日(金)~11月11日(月)
13:00 ~ 19:00(最終日は17:00まで)
火曜、水曜休館
会場
SHUTL(シャトル)
〒104-0045 東京都中央区築地4丁目1-8
企画
Acxyz Creativ
展示構成
黒澤津勝大、美術解説するぞー
入場料
無料
展覧会概要
シミュラークルとは何か
フランスの思想家、ジャン・ボードリヤールは、著書『象徴交換と死』や『シミュラークルとシミュレーション』の中で、「シミュラークル」という概念を提唱しました。これは「オリジナルのないコピー」を意味します。彼は現代を「シミュレーションのシミュラークル」の時代だと考えました。 現代の大量生産・消費社会では、実際に「本物」の存在があいまいになっています。あらゆるものが最初から「なにかしらのコピー」として生まれ、そのコピーの循環だけで存在しているのです。 *シミュレーション …現実にあるものの真似をする行為のこと *シミュラークル …実在するものとの関係が切れた、純粋な記号や表象、見た目。真似をした結果、できたもの
大衆娯楽とシミュラークル
私たちは長年にわたり、映画やMV、TVCMや屋外広告などにおける立体造形の制作に従事してきました。これは主に大衆娯楽であり、人々にエンターテイメントを届ける一助を担っています。 大衆娯楽の世界もまさにシミュラークルであり、そこに明確なオリジナルは存在しません。消費者の欲求に対して、先行作品の模倣や組み替えによって、新しい虚構世界が絶え間なく生産されています。 これらは消費社会のシステムを維持するための手段として不可欠なものであり、この循環を加速させることで戦後日本の大衆文化は大きく発展を遂げました。敗戦によって一度は途絶えた多くの日本の信仰や伝統は、海外文化の影響を受けながら形を変えて受け継がれていったのです。 ただし受け継がれているのは「単なる記号化された見た目(Sign)」とも言えます。例えば「侍」や「忍者」などの歴史的存在においても、現代のポップカルチャーに利用される際には、本来の歴史的文脈から切り離され、Signだけがひとり歩きしている状態が見られます。 そして私たちはその「どこかで見たことのある感じ」を疑うことなく現実世界や事実として認識し、受け入れているのです。 さらに、現代の消費社会では、ストリーミングやSNSの普及により大量のコンテンツが氾濫することで、ますます表象の消費は加速し、その価値は相対的に低下しています。 その中で一つ一つのものとじっくりと向き合うことは難しく、表層だけを消費するか、情報を受け流すことが当たり前となっており、本来の意味やメッセージ、含まれている文脈はより希薄なものとなっています。 ここではもはや作家性や独自性、文脈は重要ではなく、いかに簡潔で明瞭な「既視感のある虚構(Sign)」を素早く作り出せるかが重要となってきているのです。この状況下で、私たちはアウラ※の消失もキッチュ※も否定することができません。 *アウラ …本物の芸術作品を直接見たときに感じる特別な雰囲気のこと。歴史や文脈との一体感や、目の前で見ている「今ここでしかない」という感覚 *キッチュ …低俗なもの、陳腐なもの、まがいもの
新たなSIGNに向けて
私たちは、このようなポップカルチャーやエンタメが築いてきたイメージを肯定しながらも、単に消費を促すための記号(Sign)であった表象に、別の意味(シニフィエ)を付与し、価値観の見直しや再定義を試みたいと考えています。 虚構の循環する世界では、本来の歴史的文脈が薄れると同時に、細分化された多様な表現や新たな文化的価値が生まれる様子も見られます。この変化は、従来の文化的価値観に再考を促す契機となっていると考えます。 消費社会のスピードに飲み込まれずに、時には立ち止まって対象と向き合い、造形をさまざまな角度から読み解く楽しさを味わっていただければと思い、この企画に至りました。 今回の展示では、「手仕事」「独自性」「オリジナル」「フィクション」「シミュレーション」「アート」などをキーワードに制作した約30点の作品を展示します。 これらの言葉は、現代において一体どの部分を指しているのか。また、私たちが感じる既視感の源流はどこにあるのか。 繰り返し消費されていくSignには、かつての信仰や民間伝承、日本の伝統や文化が内包されています。じっと眼差しを向ければ、見逃してはならない重要なメッセージや意味を見つけることができるはずです。 これが変化の兆し(SIGN)になることを願っています。 *シニフィエ …言葉から湧いてくる見た目のイメージのこと。例えば「木」という言葉を耳にした時に、頭に浮かぶものがシニフィエ。ここでは「表面的な見た目から湧くイメージ」という意味で使用している。
私たちAcxyz Creativ(アクシズ・クリエイティブ)は、デジタル原型制作、造形制作、イラスト制作など、多岐にわたるクリエイティブな分野で活動しています。
本展示では、Acxyz Creativのスタッフが、これまでに培ってきた技術力や表現力を最大限に発揮し、“作家”として制作した約30点の作品を展示します。
私たちは商業美術の世界では名前を前面に出すことはほとんどありませんが、今回の展示は弊社のさまざまな技術や表現の幅を見せる展覧会となります。また、単なる技術者ではなく、表現者として日々アップデートを図る弊社としてのコンセプトを伝える機会にもなります。
さらに、今回は4名のアーティストにお声がけし、コラボレーションという形で他の作品とは異なるアプローチも試みます。
大量生産や大量消費、虚構世界が私たちに与えた変化と影響について、作品を通じて感じていただけたら幸いです。
参加作家
コラボレーション作家
それぞれの分野でご活躍されているアーティストとのコラボレーション作品を展示します
Kaniji Hasegawa
長谷川寛示
彫刻家 三重県出身。東京藝術大学美術学部彫刻科を経て、2016年、同大学大学院美術研究科彫刻専攻修了。同年、曹洞宗大本山永平寺で修行、僧侶となる。2024年に還俗。 主な個展に「decay, remains」(2023、KANA KAWANISHI GALLERY、東京)など。 グループ展に、「Têmporas/テンプラKUROOBIANACONDA #4」(2022年、Sokyo Lisbon Gallery、ポルトガル)、「跳躍するつくり手たち:人と自然の未来を見つめるアート、デザイン、テクノロジー」(2023、京都市京セラ美術館、京都)、「平衡世界 日本のアート、戦後から今日まで」(2023、大倉集古館、東京)など。 Hasegawa Kanji Koka Kola 2019 Private collection Installation view of Kyoto City KYOCERA Museum of Art Visionaries: Making Another Perspective Photo: Koroda Takeru
展示構成
Bijutsukaisetsu Suruzo
美術解説するぞー
東京都出身。2013年東京学芸大学中学校教員養成課程美術専攻卒業。その後約9年間、主に中学校で美術教員の職に就く。2020年から「美術解説するぞー」のハンドルネームで「美術は“視点”がわかるともっと楽しくなる」をモットーに、SNSを中心として美術解説に特化したコンテンツを開設する。2022年には教員を辞めフリーランスに。現在は誰もがアートを楽しめる『×art |かけるアート』を運営しながら、企業での講座や展覧会解説のアンバサダー、美術寄稿、アーティストステートメント考案作成、制作アドバイスなどなど多岐にわたる美術啓蒙活動を行っている。
会場
SHUTL(シャトル)〒104-0045 東京都中央区築地4丁目1-8
東京メトロ日比谷線 東銀座駅5番出口より徒歩3分
東京メトロ日比谷線 築地駅2番出口より徒歩4分
都営大江戸線 築地市場駅A1出口より徒歩7分